バイクは、いうまでもなく楽しい乗り物です。しかしその一方で、事故の際に重症事故に至る可能性が大きい乗り物でもあります。
また、意外なことで相手に大変なケガを負わせてしまう可能性もあります。
意外と自分は大丈夫と思っている人、あるいは保険にしっかり入っているから大丈夫、と思っている人も少なくはないのではないでしょうか。
今回は、一般的な事故の対処方法と、実家が某有名損保代理店であった筆者が母から教わっている知識を交えてお伝えしていこうと思います。
事故に遭ってしまったら、何よりまず冷静になる。
事故に遭いたくて合う人もいなければ、いつ事故に遭うか把握している人もいません。
実は事故というのは、予期しない瞬間に、誰の上にも起こりうることなのです。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、可能性が自分にもあると思って備えておいていただきたいのです。
そんな皆さんに一つ伺います。
こう聞かれて正しい答えが即答できる人もあるでしょう。しかし、ほとんどの人にとってこの後の世界は未知の世界です。
事故を起こしたときまず真っ先にしなくてはいけないのは、一つ深呼吸をして冷静になることです。
「えっ、真っ先に人命救助でしょ? 」と思う人も多いでしょう。はい、わかっています。
しかしあえて書かせていただきますが、事故に遭ったときというのは、後にも先にも冷静さが必要なのです。
事故を起こしたとき、というのは誰でも驚きます。うろたえます。
ひどい時には怯えて何も考えられなくなります。少なくとも正常な精神状態ではなくなるかもしれません。
ですから、「まず冷静になる」これはわざわざ書いておかなければならないくらい重要なのです。いざというとき必ず思い出してくださいね。
事故を起こした・または事故に遭ってからするべきこと
事故が起きたら行うべきは次の手順での対処です。
- 負傷者を救護する
- 警察へ事故の届出
- 目撃者を確保
- 事故現場の保存
- 現場の記録を取る
- 保険会社通報
- 医師の診断を受ける、受けてもらう
1.負傷者を救護する
先ほども少し触れましたが、事故の際気を落ち着かせて真っ先にすることは、負傷者の有無を確認し、負傷者が出ている場合には119番通報、そして救護することにとっても重要です。
負傷者救護については法定義務ともなっていますので、当事者になった以上これを行わないという選択肢はありません。
万が一、負傷者の救護を怠った場合には、5年以下の懲役、または50万円以下の罰金、違反点数23点で免許取り消しになります。
その上、過去の違反記録によっては、数年間運転免許証を受けることができなくなる等、相当の社会的制裁を受けます。
まぁひき逃げですから当然ですよね。
人に危害を加えた場合同様、相手方のものを壊した場合にも通告義務があります。
もし、警察に無届でその場を立ち去ると「当て逃げ」(通告義務違反)として3か月以下の懲役、または5万円以下の罰金、違反点数5点となります。
いずれにしても絶対にそのままその場を立ち去ることは許されません。法以前に人としてどうかって話ですよね。
2.どんなに些細な事故でもなあなあにせず、絶対に警察へ連絡をする
1.なぜ警察に届けるのか?
ここはよく覚えておいてください。
この後加入されている保険を使って人のケガや、物の弁償を行っていくわけですが、大したことがないからと勝手な判断で警察への届け出を行わない人が多いのです。
この警察への届けをして警察がそれを事故として受理し、警察から事故証明が出てから初めて保険会社がその事故に対して動き出せるのです。
もっとシンプルに言うと、「警察に届けないものは保険が下りないので、全額自費になりますよ」ということです。
関連記事 → バイクの任意保険の選び方
事故直後は体に異常がなくても、後で瀕死の重症であることが分かるケースはいくらでもあります。
同じように、表面上壊れたモノがなくても重要かつ高価な部品が損傷しているというのが後でわかることもいくらでもあります。
後々を考えてしっかり事故として処理してもらうために警察への通報は大げさでも何でもないんだということをとにかく覚えておいて下さい。
2.警官を公証人にする
警察に届けなくてはいけない理由はそれだけではありません。
事故マニュアル的な多くのWEBでは、この段階で個人情報の交換をするよう指示しているものがありますが、これは絶対にやめてください。
世の中きれいなことばかりではないのです。
かなしいことに、事故で儲けようとする専門の当たり屋集団というのがかなりの数いるんです。
これは損保会社代理店を営んでいた母から口を酸っぱくして言われていたことで、重要なので皆さんも覚えておいていてください。
示談屋など警察以外の仲介は全てクロ
彼らは、「警察には言わなくてよい」とその場は文字通り穏便に済ませ、とりあえず連絡先を訊き出し、後で高額の慰謝料や偽の領収書で弁済金を求めてきます。
時にはその筋の人が「肩代わりをした」といって夜討ち朝駆けで襲撃してくる場合もあります。絶対に住所を教えてはいけません。
反対に被害事故の場合、示談屋と呼ばれる人がやってきて被害を取り下げろと凄んでくる場合もあるのです。
ですから、絶対にその場でなぁなぁに済ませたり、決して示談書のようなものに署名してはいけません。まして個人情報を易々と伝えるのは危険極まりない行為です。
その場は大したことがなくても、相手が何をどう言おうとも、警察を呼んで事故証明を書いてもらってください。対策は後述しますが個人情報は教えてはいけません。
繰り返し言いますが、そうでなくても事故の際、おかしなことを言いだす人というのはびっくりするくらい多いんです。
当たり屋の相手は一人だとは限らない
年より夫婦、子連れ、カップル、意外な形で自然に当たってくるプロ集団がいます。気を付けてください。
対策としては、名前は教えても個人情報、住所と連絡先は安易に相手に教えないことが第一です。お互いの保険会社の情報を交換して、個人情報については保険会社経由を原則とする旨伝えましょう。
「お互いにこの場ではご住所等を存じ上げないことにしましょう。」と提案して、この後の保険会社への連絡の時に、保険会社の担当にもその旨を伝えておきましょう。
そして電話口で「ご住所を担当にお話しください、そしてお宅様の保険会社のご担当に個人情報をお預けしますので、お宅様がご加入の保険会社のご担当とお話をさせてください」とお断りをしましょう。
柄の悪い人や、この件でもめるようであれば、警察官立会いの下の取引として間に立ってもらいましょう。(先述の通りプロの当たり屋は一見してわかりにくいので注意です)
そのためにも警察官を呼ぶのは必要なのです。
これは重要なので、覚えておいてください。
3.目撃者の確保
GoProやドライブレコーダー等、事故映像があればそれを提出するといいのですが、h悲しいことに、事故の際びっくりするような嘘をつく人というのは少なくありません。
ですので、警察が来るまでに、周りにいる人に呼び掛けて「申し訳ありませんが、どうか警察が来たときに目撃者になってください」とお願いしておくとよいでしょう。
無理なようなら、スマホで音声で証言内容と、お名前とご連絡先を伺っておくのも手です。
実は被害事であるにも関わらずバイクの場合、多くはバイク側の加害事故、あるいは責任過多として処理されてしまう傾向にあります。
当事者として努めて毅然とした態度をとるのももちろんですが、第三者の証言を確保することというのが大切なのです。
4.事故現場の保存
事故の内容にもよりますが、安全なところに車を移動させる前に必ず事故直後の様子をスマホなどで写真に撮っておきましょう。
車両が動かない場合には、発煙筒や三角板などで後続車に事故を知らせ、二次事故を防がなくてはなりません。
ブレーキ痕や、車体が路面を擦った後などは、人の口以上に有能な証言者になってくれます。それらが侵されないように、現場保全に勤めましょう。
5.現場の記録を取る
最終的に事故というのは、よっぽどのものでない限り、双方の保険会社が互いの加入者の責任割合を決めて、加入者がそれを納得示談が成立し必要な保険金が支払われて収束します。
ここに至るまでに一番もめるのは、証拠と事故割合の決定です。
それゆえに、当事者として現場にいるときになかなか難しいことですが、映像、音声として記録はできるだけ多く残すべきです。
写真の記録のポイント
- 現場の見取り図の参考になるような写真
- 被害状況が分かるような写真(車両・被害者・物損)
- 事故原因の証拠になるような写真(タイヤ痕とタイヤ・地面の傷と車両等の関係写真)
音声の記録のポイント
- 相手とのやり(特に被害事故の場合に否を認めているかどうか)
- 目撃証言証言者の住所氏名電話番号等
- 警察官とのやり取り(警察の指示や担当係官の氏名所属警察署)
「簡単に謝らない」のもポイント
アメリカでは交通事故が起きたとき、簡単に’I’m sorry’といってはいけないといいます。
もし安易に謝ってしまったら、謝った=罪を認めている、と判断され、被害事故でも保険金が支払われないケースがあるといいます。
日本ではそこまで極端ではないですが、必要以上に下手に出ると相手が増徴することもあります。
毅然とした態度で、誠意をもって保険を使って対応することを表明したうえで、同じような注意が必要です。
6.保険会社へ通報
先ほども申し上げたように、当事者同士の直接取引は絶対にしてはいけません。必ず保険会社を間に入れましょう。
とにかく個人情報の扱いにだけは厳重に注意してください。
そして先述のように保険会社通しの話し合いになり、適切な責任割合を勝ち取って示談を成立させましょう。あくまで通常の事故の場合です。
事故によって死傷者が出た場合は、この上裁判・交通刑務所での禁錮または多額の罰金刑を言い渡されます。
勘違いしている人も多いので言っておきますが、民事上の賠償請求額は保険支払われても刑事罰としての罰金まで面倒見てくれる保険会社は日本にはありません。
また、バイクの極度の改造、飲酒薬物の使用等々、保険規約に違反していると認められる場合は、億単位の支払いであっても、一切の保険が不適用になる場合があります。
まさかとお思いかもしれませんが、こういったケースも多く、「知らなかった」と大暴れする人も多いのです、残念ながら。
バイクの任意保険は必須の保険
今更恐る恐る聞きますが、バイクに乗るのに任意保険に入っていないという人はいませんよね。
例え、あなたが自分や他人の生命財産を危険にさらすのが趣味だったとしても、それは人の道として許されません。
これまでのお話は任意保険加入を条件としたお話ですので、万一任意非加入の方がいたら、関係記事をご用意していますので、すぐにでも加入してください。バイクを降りてくださいとまではいいませんので・・・。
関連記事 → 任意保険の選び方
7.医師の診断を受ける、受けてもらう
被害事故の場合は、絶対に後回しにせずに医師の診察を受けましょう。最初に書きましたが、その場はなんでもなくても後で重症化するのが交通事故傷害の特徴です。
WEBでも、「事故を忘れた頃に、頭痛が起きて、CTを取った医師が見たものは・・!」みたいな記事を結構見かけませんか?
事故証明が出ていれば何とかなりますが、出ていない場合、高額ましてや死亡に至っても泣き寝入りせざるを得ません。
その上事故から時間が経ちすぎていると、事故との因果関係を立証するのにも時間がかかりますし、保険会社も支払いを渋る場合があります。
通院にかかった費用だけでなく、通院のために仕事を休んだ休業費用やタクシー以外の交通費も保険金請求できます。
ですからどんなに忙しくても、事故を起こしたら一両日中に診察を受けるのを原則としてください。
また、加害事故の場合、相手が多忙を理由に拒むこともありますが、後で亡くなられては困ると思って必死に説得しましょう。決してこれは大げさではないんですよ。
まとめ
筆者はかつてレンタカー店の社員として数多くの事故に携わりました。
レンタカーは貸し渡しをする際に、ほぼ毎時事故時の現場での対応の仕方を説明しています。
多くの人は知らないことですが、レンタカーでお客さんが事故を起こして帰って来ると、貸し渡しをした社員に落ち度はなかったかどうか接客時のビデオをチェックされ、場合によっては給料を減らされることもあるので、説明する方も必死なんです。
事故を起こすお客様にはいろいろな人がいます。
聞いてない、説明が悪いと怒る人。(人のもの壊してきて何考えてるんでしょうね? )
ぐちゃぐちゃにした車で帰着して、ニッコリしながら、「事故ったんですけどどうしたらいいですか?」と当て逃げして帰って来る人。(ご出発前説明担当しましたが、耳になんか詰まってんでしょうか)
そして、前職でセンターラインオーバーしてきたダンプと正面衝突して殉職した社員もいますが、こちらが亡くなったのをいいことに、相手のせいにして元?犯人は過失責任を逃れました。
筆者の経験から事故というものに対して3つのことが言えます。
- いざというとき、人は汚い手を使ってもわが身を守ろうとする。
- 事故は証言や言い分によって真実が簡単につぶされることがある。
- 安全運転とは、身の危険や物損を防止する以上に、こうした人の汚らしさに触れないための運転をいう。
そして似たような問題に親子で直面して思うのは、
- 事故の報告は、誠実に対応してほしい。
- 保険を食い物にしないでほしい。
こんな当たり前のことが切望されるくらいなんです。
人や世の中に否定的な考えを持ちすぎなのではないかとたまに言われることもありますが、このようなことにうんざりするほど付き合わされると、不覚にも思ってしまうのです。
性善説なんてこの世にはないのではないかと・・。だからこそ、バイクに乗っている自分の身は自分で守りましょう。